アスベスト解体費用相場と知っておきたい補助金制度
アスベストが使用されている住宅を売却する際、買主が負担するアスベスト除去工事費用を加味して売却価格を決定します。
その理由は、アスベスト含有建材が使用されていることで、解体費用が高額になるためです。アスベストは住宅として通常使用しているだけであれば、人体に直接的に影響を及ぼすことはありません。しかし解体や改築で、壁を壊したり配管を撤去したりした際に発生する粉じんを吸引し、肺に蓄積したアスベストが肺がんをはじめとする重篤な健康被害をもたらすことがわかっています。
こうした理由から、不動産売買の現場においては、買主が将来的に建物を解体・改築する可能性に配慮した取引を行う必要があるのです。
そこで本記事では、アスベストが使用されている住宅を解体する際にかかる費用の相場や、活用できる補助金制度について解説します。アスベスト解体工事にどれほどの費用がかかるかをあらかじめ知っておき、不動産売買時の価格設定の参考にしましょう。
1.アスベストの使用有無が不動産売買に及ぼす影響
建物の耐久性や耐熱性、防音性などを高めることを目的として、かつては建築業界において頻繁に使用されてきた「アスベスト」。安価で利便性が高い一方で、人体の健康に対して甚大な影響を及ぼすものとして、2006年以降はアスベスト含有建材の使用は全面的に禁止されています。
アスベストの使用有無は不動産売買においても無関係ではなく、アスベストが使用されているか・アスベスト使用調査の記録があるかによっても、スムーズに物件を売却できるかどうかが左右される場面も少なくないのが現状です。
アスベストが人体に有害とされるのは、解体・改築時に発生するアスベスト含有の粉じんを吸引してしまう場合です。つまり、コンクリートで固められた状態であれば、住居として通常使用するぶんには大きな問題にはならないということになります。
しかし一方で、建物の状態が悪く、アスベストが露出している箇所があると、買い手が見つかるまでに期間を要するばかりか、いつまでたっても成約に至らず、最終的に建物を解体して土地のみで売り出す必要性まで出てくるのです。
2.アスベスト解体費用が高額になる理由
アスベスト解体費用が高額になってしまう理由は、通常の解体工事に加えて、特別な安全対策を講じる必要があるためです。
アスベストは上記で解説したとおり、吸い込むことで肺の中に細かい繊維状の鉱物が溜まり、重大な健康被害に発展するということがわかっています。アスベスト含有建材を使用した住宅の解体・改築を行う際、発生する粉じんにより、作業員や近隣住民がばく露しないように対策しなくてはなりません。また、後に解説しますが、アスベストの飛散の危険性によっては、作業員が着用する防護マスクや防護服のほかに、更衣室やクリーンルームが必要になるケースもあります。
これらの対策は「大気汚染防止法」や「労働安全衛生法」などの法律に基づいた厳しいものであることから、アスベスト解体工事には高額な費用がかかるのです。
3.アスベスト調査にかかる費用
アスベスト調査は、実際に工事を行う解体業者ではなく、アスベスト調査専門の機関が行います。
アスベスト調査と解体工事を同時に行う場合は、解体業者がアスベスト調査の専門機関に発注し、解体工事の見積もりに上乗せされるという方法をとります。
アスベスト調査は2段階に分けて行われ、それぞれかかる費用が異なります。
1)事前調査
解体工事の対象である住宅に、アスベスト含有建材が使用されているかどうかを、工事前に調査することを「事前調査」と呼びます。
事前調査の対象になる主な建材は下記のとおり。
・吹き付け材
・保温材(断熱材)
・成形板
・仕上塗材
上記の建材の種類を調査し、アスベスト含有の建材かどうか、どの箇所にどの程度使用されているかを確認するのが、事前調査の目的です。
アスベストの事前調査は「書面調査」と「現地調査」の2段階で行われます。
(1)書面調査
「書面調査」では、建築時の書面や工事概要などの書面を参照したり、建築当時の発注者や工事関係者に対してヒアリングを行ったりすることで、アスベスト含有建材使用有無の仮判定をします。
最終的には現地に赴き、目視で製品の種類や使用状況を確認しますが、事前に書面で使用状況を大まかに把握しておくことで、アスベスト含有建材使用有無の把握漏れ防止につながります。
(2)現地調査
書面での調査結果を基に、住宅を目視で調査を行うのが「現地調査」です。書面調査に加えて現地調査も行う理由は、建築時の書面や設計図書などの書面と、実際に行われた工事内容が、必ずしも一致するとは限らないためです。使用を満たすことを目的として、現場判断で設計図書にはない施工をする場合や、改修内容が設計図書として残されていないケースも存在するのです。
書面調査で判明した使用建材の商品や工法と、現地調査によって確認した実際の施工状況が一致していれば問題ありませんが、相違があった場合はアスベスト含有建材かどうかを判断する必要があるため、次の「分析調査」に進むことになります。
(3)事前調査の費用
事前調査にかかる費用は、書面調査の場合で20,000〜30,000円、現地調査の場合で20,000〜50,000円程度です。解体工事を実際に行う場合は、目視による現地調査も行う必要があるため、事前調査には40,000〜80,000円程かかる計算になります。
2)分析調査
事前調査により、アスベストが使用されているかどうかの判断ができない場合は、建材からサンプルを採取して成分分析をする「分析調査」に進みます。
分析調査は「定性分析」と「定性・定量分析」の2段階に分けて行われます。
「定性分析」は、住宅に使用されている建材に「アスベストが含まれているかどうか」を調べるものです。
定性分析の結果、0.1%以上のアスベストが含まれていると判断された場合に、「アスベストが何%含まれているか」を調査するものです。
分析調査にかかる費用は、定性分析と定性・定量分析のそれぞれについて、30,000~50,000円程度が相場とされています。
ただし、事前調査の結果アスベストの使用有無が判明しなかった場合でも、解体業者が建材を「アスベストが使用されているもの」という前提のもと取り扱う場合であれば、必ずしも分析調査を行わなくてもよいということになっています。(石綿障害予防規則第三条第4項)
(参照:石綿障害予防規則https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417M60000100021_20220531_504M60000100091)
(参照:解体工事.com『アスベストの費用相場と内訳』https://xn--3kqvs447ab16b.com/asbestos-survey-cost/)
4.アスベストの解体工事費用
アスベスト解体工事費用にかかる費用は、国土交通省が除去単価の目安を公表しています。
アスベスト処理面積 | 除去費用 |
---|---|
300㎡以下 | 2.0万円/㎡~8.5万円/㎡ |
300㎡~1,000㎡ | 1.5万円/㎡~4.5万円/㎡ |
1,000㎡以上 | 1.0万円/㎡~3.0万円/㎡ |
※2007年1月から2007年12月における施工実績データから算出
(参照:国土交通省 アスベスト対策Q&A『Q40アスベスト含有吹付け材の除去費用は、目安として、いくら位かかりますか。』https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/Q&A/#a40)
上記の表において、アスベスト解体工事費用の単価に開きがある理由は、処理する箇所によって作業レベルが異なるためです。ここからはアスベスト解体工事の3つの作業レベルについて、それぞれどれくらいの費用がかかるかを見ていきましょう。
1)レベル1の解体費用目安
レベル1に分類されるのは、アスベスト含有の吹付け剤が使用されていることの多い、建物の柱・天井・梁などの部分。アスベスト濃度が特に高く、解体時に粉じんが多く発生し飛散性も高いことから、最も慎重に作業を行わなくてはならない箇所です。
解体工事費用の目安は1㎡あたり1.5~8.5万円程度。レベル1の箇所に対して行われるアスベスト工事は、下記の3つに分類され、費用は工法によっても変動します。
(1)除去工法
「除去工法」は「リムーバル工法」とも呼ばれ、アスベスト含有の建築材をすべて取り除く工法です。
3種類のアスベスト工事のうち、アスベストを完全に取り除けるのはこの除去工法のみのため、建物の解体工事の場合は、必ず除去工法が行われることになっています。
また他の2種類の工法とは異なり、改築時に用いる場合でも、その後の定期的な点検やメンテナンスが不要という安全性の高さから、最も推奨されている工法といえます。
(2)封じ込め工法
「封じ込め工法」では、アスベスト含有吹き付け剤の層の部分に薬剤を散布し、アスベストを含む粉じんが飛散しないように表面を覆います。
「エンカプスレーション工法」とも呼ばれるこの方法は、アスベストが使用されている部分が露出している場合や、リフォーム工事の対象部分にアスベストが使用されている際に用いられ、除去工法と比較すると、作業時間が短く費用負担も安く済むのが特徴です。
ただし、封じ込め工法ではアスベストを完全に取り除くことはできないため、建物の解体工事の際には、除去工法によるアスベスト除去工事が必要になります。
(3)囲い込み工法
「カバーリング工法」とも呼ばれるこの方法では、アスベストが露出している部分に対して、アスベストを使用していない板状の材料などを取り付け、アスベストの露出部分を完全に密封します。アスベストの飛散を防ぐ目的で、アスベストが使用されている天井や梁に対して用いられるケースが多くあります。
囲い込み工法もアスベストを完全に取り除く工事ではないため、アスベストが露出していることで健康被害が懸念される場合に用いられます。解体工事の際には除去工法が必要である点は押さえておきましょう。
2)レベル2の解体費用目安
内壁・配管・柱には、断熱性や耐火性を高めることを目的としてアスベストが使用されている場合があります。
レベル1と同様、アスベスト濃度・飛散性が高い箇所のため、厳重な体制のなか慎重に除去作業を進める必要があります。
レベル2の解体工事費用の相場は、1㎡あたり1〜6万円程度です。
3)レベル3の解体費用目安
レベル3の作業に分類されるのは、アスベストが含まれる屋根材(スレート瓦やコロニアルなど)や外壁材を撤去する作業です。
屋根材や外壁材はアスベストが固められた状態であるため、レベル1やレベル2の作業箇所と比較すると、アスベストが飛散する可能性は低いといえます。しかし、解体工事においては、建材を処分する際に必要に応じて粉砕したり、建材を手作業で剥がしたりするため、ばく露防止対策は十分にしておかなくてはなりません。
屋根を解体する際の費用相場は約20万円、外壁はさらに面積が広いため30〜40万円程度です。
(アスベスト解体工事の費用相場に関する参考:家仲間コム【アスベストの解体工事】費用相場と理想的な業者の選び方 https://www.ienakama.com/demolition/tips/page/?tid=1860)
5.アスベスト解体費用を安く抑えるコツ
アスベスト解体工事は専門家に依頼する必要があり、そのぶん費用も高額になります。解体費用を安く抑えるコツを事前に知っておきましょう。
1)複数の業者に見積もり依頼を出す
アスベスト解体工事を依頼する業者を選ぶ際、まずは複数業者に見積もり依頼を出すことをおすすめします。複数の業者を見比べることで、費用面だけでなく、アスベスト解体工事の実績が多い業者を見極められるためです。
アスベスト解体工事は、近隣住民の健康を守るためにも、アスベストが飛散しないように確実な安全対策を講じたうえで行わなくてはいけません。アスベスト解体工事に慣れていない業者の場合、費用が余計にかかってしまうばかりか、安全対策や近隣住民への配慮が不十分である可能性もあります。
一括見積ができるサイトも上手に活用しながら、安心して任せられる解体業者を選ぶようにしましょう。
2)補助金制度を活用する
アスベスト使用調査や除去工事にかかる費用は、国土交通省が創設した補助金制度を活用することで、全体の費用を抑えることが可能です。
補助対象となる具体的な調査や工事内容については、次の章で詳しく解説します。
6.アスベスト調査・除去に利用できる補助金
国や地方公共団体が用意している補助金制度を確認しておきましょう。
1)アスベスト分析調査の補助金
アスベスト分析調査を行う際は、国(国土交通省)が創設した補助制度を活用できます。
対象建築物 | 吹付けアスベスト等*が施工されているおそれのある住宅・建築物 |
補助内容 | 吹付け建材中のアスベストの有無を調べるための調査に要する費用 |
国の補助額 | 原則として25万円/棟 (民間事業者等が実施する場合は地方公共団体を経由) |
*吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール
(参照:厚生労働省石綿総合情報ポータルサイト 補助金制度『石綿(アスベスト)調査をしたいのですが、補助金制度はありますか。』https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/subsidy-system/)
なおこの補助制度は、物件が所在するエリアを管轄する地方公共団体を通じて、補助金を受け取るというものです。地方公共団体によっては補助制度がない場合もありますので、事前にお住まいの地域の地方公共団体に確認しておきましょう。
2)アスベスト除去工事の補助金
囲い込み・封じ込めによるアスベスト除去工事に対しても、国土交通省が用意している補助制度(住宅・建築物アスベスト改修事業)を活用できます。
対象建築物 | 吹き付けアスベスト等*が施工されている住宅・建築物 |
対象とする 費用内容 |
対象建築物の所有者等が行う吹付けアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みに要する費用 (建築物の解体・除去を行う場合にあってはアスベスト除去に要する費用相当分) |
国の補助率 | 地方公共団体の補助額の1/2以内(かつ全体の1/3以内) |
*吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール
(参照:厚生労働省石綿総合情報ポータルサイト 補助金制度『除去工事をしたいのですが、補助金制度はありますか。』https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/subsidy-system/)
なお、アスベスト工事の補助金に関しても、地方公共団体によっては補助制度がない場合もあるため注意が必要です。
アスベストが使用されている住宅も売却できる
健康に悪影響を及ぼす可能性があることから、アスベストが使用されている不動産は売却できないのでは?解体しなくてはいけないの?と考える人もいるかもしれません。
しかし冒頭で触れたとおり、日本でアスベストに対する全面的な規制が敷かれたのは2006年になってから。2022年時点で築16年を超える住宅に関しては、アスベスト含有建材が使用されている可能性は決して低くなく、むしろアスベストがまったく使用されていない住宅を探すほうが難しいでしょう。
不動産を売却する際に重要なのは、アスベストが使用されているかどうかではなく、アスベスト使用調査を実施しているかどうか、そして実施結果を買主に対して正しく告知するかどうかです。
宅地建物取引業法上、不動産売買は個人間でも認められており、必ずしも不動産会社を介する必要はありません。しかしアスベストを使用している可能性のある住宅に関しては、引き渡し後のトラブルを避けるためにも、買主に対して正しく情報開示ができるよう、不動産会社を介した取引をおすすめします。
不動産会社にもさまざまな専門分野がありますが、中古戸建の売買に精通した不動産会社を選ぶことで、アスベストを使用している住宅の場合でも、市場の相場や解体費用をふまえたうえで、適切な売却価格を設定できるようアドバイスをしてもらえます。
最初のうちは複数の不動産会社に査定依頼を出し、親身に相談に乗ってもらえる不動産会社を選ぶよう心がけましょう。
ブログ:
皆の笑顔に我が笑顔あり
徳本 友一郎
- 所属会社:
- 株式会社スタイルシステム
- 所属会社のWEBSITE:
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- 保有資格:
- CFP(日本FP協会認定)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
- 著書:
- 初めての不動産購入で失敗しない17のチェックポイント
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