木造住宅でもアスベストは使われている?アスベストの危険性と売却時の注意点
アスベストは、かつては建築業界において「奇跡の鉱物」ともてはやされていましたが、現在では人体への悪影響を及ぼす有害物質として、世間一般に浸透しています。
日本では2006年9月に、アスベスト含有建材の使用等が全面的に禁止されました。その一方で、不動産売買市場に流通している建物の多くは、アスベスト使用に対して強い規制が敷かれる以前に建築されたものがほとんどのため、売買の際にはアスベスト使用調査の実施有無や、調査結果が争点になるケースもあります。そしてこれは、一般の木造住宅も例外ではありません。
本記事では一般の木造住宅にアスベストが使用されている可能性と、売却時の注意点について、下記の流れで解説します。
1.アスベストに関する基礎知識
2.木造住宅におけるアスベスト使用の可能性
3.アスベスト含有建材使用の木造住宅を売却する際の注意点
アスベストが使用されている木造住宅を売却する際は、引き渡し後にトラブルに発展しないように細心の注意を払う必要があります。不動産会社に依頼して売却する場合でも、アスベストのどのような面が危険とされているのか、売却前にどのような対策をとるべきなのかを知っておきましょう。
1.アスベストに関する基礎知識
まずは、アスベストの危険性についての基礎知識を解説します。
1)アスベストとは?
「アスベスト」は天然の鉱物の一種で、「石綿(いしわた・せきめん)」とも呼ばれます。「石綿」という感じが表すとおり、アスベストは目に見えないほど細かい繊維状の物質です。
アスベストが建築物に使用されてきた理由は、「多様な特性」と「価格の安さ」にあります。
非常に丈夫で変化しにくいアスベストは、熱や摩擦だけでなく、酸やアルカリにも強い点が特徴。建築物に対して使用することで、建築物の耐久性・耐熱性・防音性を高めてくれるというメリットがあります。
さらに、カナダや南アフリカなど世界各地で産出され価格が安いという点も、建築業界がアスベストをもてはやす理由の1つでした。建物を長持ちさせ快適性を向上させるために、屋根や天井といった、面積の広い箇所に多く使用されてきたのです。
こうした使い勝手の良さと価格の安さから、アスベストはかつて「奇跡の鉱物」と呼ばれていました。
2)アスベストにはどのような危険性がある?
一時期は建築業界で幅広く使用されていたアスベストですが、1970年以降になると、アスベストが人体に悪影響を及ぼす可能性が示唆されるようになりました。
上記で解説したとおり、アスベストは非常に細かい繊維状の物質です。建物の解体工事などで空気中に飛散すると浮遊しやすく、そのまま吸い込むと肺の内部に付着してしまいます。肺に付着したアスベストは、丈夫で変化しにくいという性質から、肺の組織内に何年にも渡って滞留し、結果的に重大な健康被害を及ぼすのです。
アスベストによって引き起こされる病気には、肺線維症(肺が線維化し、呼吸困難に陥る病気)や、肺がん・悪性中皮腫などが報告されています。これらの病気はアスベストを吸ってすぐに表れるわけではありません。潜伏期間の長さもアスベストの特徴の1つで、吸入してから15~40年後に発症するケースもあります。そのため、アスベストの取り扱いをやめた何年もあとに発症し、抗がん剤治療や放射線治療が必要になる人もいるのです。
(参考:厚生労働省『(2)石綿が原因で発症する病気は?』https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_asbest02.html)
3)アスベストに関して行われている規制
アスベストが重大な健康被害を及ぼすことから、日本では2006年9月以降、アスベストを含むすべての製品の使用が禁止されています。
しかし一方で、全面的な規制が行われる前に建てられた建物は、アスベストが使用されている可能性があり、現在では解体・改築する際に様々な規制がされています。
(1)事前調査の実施義務
建物を解体したり改修したりする際、構造や規模にかかわらず、アスベスト使用調査を実施しなければいけません。この調査においては、「事前調査」によって設計図書等の文書および現地でアスベストの使用状況を確認し、使用有無に関する調査結果を3年間保存することが義務とされています(2022年10月26日現在)。さらに2023年10月以降の事前調査に関しては、厚生労働大臣が定める者に行わせることも義務化される予定です。
(厚生労働省『解体改修工事の受注者(解体改修工事実施者)の皆様 p.1
『工事開始前の石綿の有無の調査』https://www.mhlw.go.jp/content/000912792.pdf)
(2)労働基準監督署への届出
アスベストが使用されている建築物の解体・改築を行う際には、工事開始の14日前までに労働基準監督署に届けなくてはいけません。さらに、一定規模以上の建築物を解体・改修する場合は、事前調査の結果を電子システムで報告することも義務とされています。
(厚生労働省『解体改修工事の受注者(解体改修工事実施者)の皆様 p.1
『工事開始前の労働基準監督署への届出』https://www.mhlw.go.jp/content/000912792.pdf)
(3)作業レベルに合わせた飛散防止策の徹底
アスベストを含む建築物の解体・改修は、粉じんの飛散度に応じて3段階の作業レベルに分類されます。特に多くの粉じんが発生する工事を行う際は、作業員は防じんマスクや防護服を使用するほか、作業所を別に用意したり、前室として更衣室・洗身室を確保したりする必要があります。
(厚生労働省『解体改修工事の受注者(解体改修工事実施者)の皆様 p.7
『石綿含有仕上塗材の除去工事に対する規制』https://www.mhlw.go.jp/content/000912792.pdf)
(平成十七年厚生労働省令第二十一号 石綿所外予防規則
第二節 労働者が石綿等の粉じんにばく露するおそれがある建築物等における業務に係る措置 第十条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417M60000100021)
2.木造住宅におけるアスベスト使用の可能性
人体に悪影響を及ぼすことから、解体・改修時に厳しい規制が設けられているアスベストですが、一般消費者が気になるのは「一般住宅にも使用されているかどうか」ではないでしょうか。
結論からお伝えすると、木造の一般住宅でもアスベストが使用されている可能性があります。
アスベストが使用されているか・どの程度使用されているかについては、住宅が建てられた年代や使用されている建材によっても異なります。アスベストの使用有無によって自宅売却時の売却金額が変わったり、アスベストの使用状況を調査する必要が出てきたりするため、どのような住宅で使用されている可能性があるかを知っておきましょう。
1)アスベストの使用有無は築年数で判断できるのか
建築物に対するアスベストの使用は、1970年代から段階的に規制が行われてきました。
1975年 | アスベスト含有率5%を超える吹き付け材の使用禁止 |
1995年 | アスベスト含有率1%を超える吹き付け材の使用禁止 (保護具着用などの条件付きで可能) |
2004年 | アスベスト含有建材の製造・輸入・使用の禁止 |
2005年 | アスベスト含有率1%を超える吹き付け材の使用について、保護具着用等の条件削除 |
2006年 | アスベスト含有率0.1%を超えるアスベスト製品の製造・輸入・使用の禁止 |
(参照:千葉県『石綿関係法規の変遷』https://www.pref.chiba.lg.jp/taiki/asbestos/transition.html)
2006年に労働安全衛生法施行令が改正されたことで、現在ではアスベスト含有建材の製造・輸入・使用が全面的に禁止されています。そのため、改正後に建築された住宅に関しては、アスベストが使用されている可能性は低いと言えます。
しかし一方で、築16年(2022年現在)を超える住宅に関しては、吹き付けアスベストが使用されている可能性は低いものの、アスベスト含有建材が使用されている可能性は残っているのです。
2)木造住宅でアスベスト使用の可能性が高い箇所
アスベストは耐久性・耐熱性・防音性の向上を目的として用いられているため、使用されている可能性のある箇所はある程度推測できます。
木造住宅でアスベストが使用されている可能性がある箇所の一例を、下記にまとめました。
・屋根材(コロニアルやセメント瓦) ・外壁(波板スレートや仕上げ塗材) ・台所や浴室の天井や壁(ケイ酸カルシウム板) ・天井の仕上げ材(バーミキュライト吹き付け材) |
(参照:足立区『木造住宅の工事でもアスベスト調査が必要です』木造住宅のアスベスト含有建材の使用例 https://www.city.adachi.tokyo.jp/kankyo-hozen/asb_chosa.html)
3.アスベスト含有建材使用の木造住宅を売却する際の注意点
木造住宅にアスベスト含有建材が使用されている場合でも、セメントで固められた安定した状態であるため、通常の生活を送るうえでは問題ありません。しかし、「アスベスト=健康に悪い」というイメージから、築年数が古い物件を購入する人や、中古の木造住宅を購入にリフォームを検討している人は、対象の住宅にアスベストが使用されているかを確認したうえで、購入を検討するケースが多いと言えます。
所有する木造住宅にアスベストが使用されていることで、売却時にどのような問題が起こるのか、売主にどのような義務が発生するかを事前に知っておきましょう。
1)木造住宅にアスベスト含有建材が使用されていることによる売買への影響
アスベストが使用されている木造住宅を売却する際に考えられる影響としては、買い手が見つからないこと、そして売却価格が下がることが挙げられます。
アスベストは健康に重大な影響を与えることから、「アスベストが使用されている」というだけでマイナスイメージを持つ人も少なくありません。しかし厚生労働省によると、アスベストが危険とされるのは「空気中に浮遊した状態にあるとき」です。天井や壁の劣化により、吹き付け材が露出しているなどの状態でない限り、建材として固められた状態であれば、通常使用による危険性は低いと考えられます。
(参照:昭和63年環境省及び厚生省通知『建築物内に使用されているアスベストに係る当面の対策について(通知)』Ⅰ基本的認識 https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/07/dl/tp0729-1a.pdf)
売買の対象となる住宅の状態がよく、購入希望者が解体やリフォームを検討していない場合であれば、売買価格に大きな影響が出る可能性は高くありません。
その一方で、買主が購入後にリフォームを前提として物件の購入を検討している場合、アスベスト除去工事にかかる費用を考慮したうえで、売買価格を決定することになります。アスベスト含有建材を使用した木造住宅を売却する際は、類似した住宅を売却する場合の相場と比較して、売却価格が下がる傾向にあるということを認識しておきましょう。
2)売主の義務は「アスベスト使用調査の実施有無」の開示のみ
不動産売買が行われる際に売主に課される義務は、「アスベスト使用調査を実施しているかどうかを買主に開示すること」に留まります。つまり、売主側でアスベスト使用調査を実施していなければ、「調査していない」ということを開示するだけで足りるということです。
しかし、買主の立場としては、アスベストが使用されているかどうかを知らないまま木造住宅を購入すると、解体やリフォームをする際にアスベスト使用調査のための費用が発生するというデメリットがあります。さらに万が一アスベストが使用されていることが判明した際には、除去工事のための費用もかかってしまうというリスクすらあるのです。
こうした理由から、アスベスト使用調査を実施していないというだけで、買主側は「この物件を購入して大丈夫だろうか?」と慎重になるため、売買対象の木造住宅の価値自体が下がってしまうケースも少なくありません。
3)引き渡し後にアスベスト使用が判明したらどうなるか
それでは、もし万が一アスベストの使用有無が不明のまま売買契約が成立し、引き渡し後にアスベストが使用されていることが判明した場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
アスベスト使用調査の実施記録が「なし」あるいは「不明」のまま木造住宅を売却し、引き渡し後に買主側でアスベストの使用が判明した場合、売主は「契約不適合責任」を問われることになります。
「契約不適合責任」とは、引き渡しを受けた住宅が、契約時に約束した品質に適合しない場合に、買主は売主に対して、物件の補修や代金の減額を求められるというものです。
つまり、引き渡し後にアスベストの使用が判明した場合、買主からアスベスト除去工事の費用や、売買金額の減額を求められる可能性があるのです。
4)木造住宅は売却前のアスベスト使用調査実施が推奨される
契約前に売主側でアスベスト使用調査を実施しておけば、万が一使用が確認できた場合でも、契約内容として明示しておくことで、買主側はアスベスト使用の事実を知ったうえで木造住宅を購入できます。契約書上で契約不定合責任の免責事項(引き渡し後に売主は責任を負わないという取り決め)を追記して売買契約を締結できるため、売主側のリスクを軽減できるのです。
売買金額が減額になる可能性や、アスベスト使用調査自体にも費用がかかることから、事前に使用調査を行うことに対して尻込みする売主もいます。しかし、引き渡し後にアスベストの使用が判明すると、売主側のほうが不利な状況に追い込まれることは避けられず、事前の調査費用よりも大きな負担を強いられるリスクもあります。
木造住宅を売却する際には、ぜひとも事前にアスベスト使用調査を実施しておきたいところです。
アスベストが使用されていても売却できる!まずは不動産会社に相談しよう
アスベストは事務所や工場、店舗といった事業用の建物だけでなく、一般の木造住宅にも使用されている可能性が大いにあります。
木造住宅を売却する際、売主に課される義務は「アスベスト使用調査実施の有無」の開示のみですが、万が一引き渡し後にアスベストの使用が判明すると、売主側に大きな責任がのしかかるため、調査を実施してから売却するほうが安心です。
法律上は個人間取引が認められている不動産売買ですが、アスベスト含有建材を使用した木造住宅を売却する場合は、売買専門の不動産会社に仲介を依頼しましょう。中古の木造住宅を売買する際にトラブルになりやすいポイントを知っているだけでなく、希望に近い金額で売却するためのアドバイスを受けることもできます。特にアスベスト含有建材を使用した木造住宅は、引き渡し後のトラブルを回避するためにも、専門家の力を借りることをおすすめします。
売買専門の不動産会社は多く存在します。まずは複数の不動産会社に査定依頼したうえで、査定金額やサービス内容、営業担当者の対応などを見極めて、信頼できる不動産会社を見つけるようにしましょう。
ブログ:
熊谷で働く不動産屋のブログ
日向 弘薫
- 所属会社:
- 株式会社 末広不動産
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- AFP(日本FP協会認定)、モーゲージプランナー 宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、 NPO法人相続アドバイザー協議会会員
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